中古車トラブル事例
【相談内容】保証期間中に発生した故障に対する販売店の対応について
6ヵ月保証付きで自動車を購入しましたが、2ヵ月が経過した時点でエンジンが焼きつくというトラブルに見舞われました。パイロットランプ(警告灯)が故障していてエンジンオイルランプ警告灯が点灯していなかったため、エンジンオイルの不足に気付かなかったのが原因でした。
- 相談①: 販売店は「ユーザーが日常点検をしていればオイル不足は発見できたはずだから、修理はするが修理代を幾分かは負担してもらいたい」と言っていますが、この言い分は正しいでしょうか。
- 相談②:エンジンの調子がなかなか元に戻らず、修理を繰り返しているうちに6ヵ月が過ぎてしまいました。販売店は「6ヵ月経過後の修理については、ユーザーが修理費の全額を支払うべきだ」と言っていますが、この言い分は正しいでしょうか。
【回答】
本設例では、パイロットランプが販売の当初から故障していたのか、それともユーザーの使用の途中で故障したのか、はっきりしません。もし、ユーザーが自動車の使用を開始してからパイロットランプの故障が生じたとすると、それはユーザーの使用に伴う自然損耗である可能性も否定できず、そうだとすれば販売店はその故障について責任を負う必要はありませんから、それに起因して起きたエンジンの焼きつきについても責任は負わないで良いということになります。
反対に、販売の当初からパイロットランプが故障していたのだとしたら、ユーザーがそれに気がつくべきであったかどうかにかかわりなく、それについて販売店が責任を負うのは当然であり、したがってその故障に起因してエンジンの焼きつきが生じたことについても、販売店が責任を負わなくてはなりません。
相談①:日常点検をしていれば発見できたはずという販売店の言い分について
パイロットランプが販売の当初から故障していたとした場合、販売店がエンジン修理の責任を負うことは上に述べたとおりですが、ユーザーが日常点検をしていれば、オイルの不足を発見することも容易だったはずです。日常点検というのは、自動車の安全な運行の確保という公益的な面から自動車を運行する者に課されている義務で、それは直ちに契約当事者の責任範囲を決定する根拠となるものではありませんが、運転開始にあたってオイルの量が適当であるかどうかを確かめることなどは運転にあたっての基本的かつ初歩的事項ですから、これを怠ったユーザーには、損害の発生について過失があったことになります。
以上のことから、エンジン修理の費用の一部をユーザーが負担すべきである(過失相殺)という販売店の主張は正しいといえます。ただし、パイロットランプの故障を見逃すと、いつかはこのような故障になることは十分予見され、その意味でプロである販売店の過失はユーザーの過失に比較して重大ですから、ユーザーに負担を求める金額は修理費総額の1割程度と見るのが相当でしょう。
なお、一般に使用されている保証書には「使用者の過失の場合は保証適用外とする」旨が記載されていますが、使用者に少しでも過失があった場合には全面的に保証適用外とするのは公序良俗違反によって無効である疑いがあります。この規定は「そのような場合には使用者の側にも一部の責任を負担してもらいます」との趣旨を表示したものと解釈するのが相当でしょう。
したがって、設問①のケースで、このような保証書の記載があったとしても、先に述べた結論に変わりはありません。
相談②:修理を繰り返している間に保証期間を過ぎてしまったことについて
保証期間というのは、その期間内に生じたトラブルについて責任を負うことを明示するものです。
したがって、その期間内に生じたトラブルに対する修理が期間外にわたっても、保証の効力はそれに及びます。ですから設問②の場合での、ユーザーは依然として販売店の負担で修理を要求できます。
【解説】
保証付き販売の場合の販売店の責任範囲
保証なし販売でも販売店はその自動車が通常備えているべき品質、性能を保持していることにつき購入者に責任を負いますが、「通常備えるべき品質、性能」といっても必ずしも明確でない場合もありますので、一定の範囲の事項については販売店が当然に修理などの責任を持つことにして行うのが保証付き販売です。
中古車売買の契約における車両の引渡しは取立債務であり、ユーザーが店頭へ引取りに行くことが前提となる取引ですので、特別な約束をしていない限り保証修理であっても車両を販売店に持ち込むのはユーザーの責任で行うことが原則となります。
契約不適合の場合の販売店の責任範囲
一方で、保証ではなく契約不適合による車両の品質に問題があった場合は追完請求(無償修理請求)が可能であり、この無償修理に伴う持込(引取)費用について特段の定めがない場合、ユーザーは請求することができ、販売店が負担しなければならないケースも考えられます。
遠方で購入したユーザーからは車両を動かせないのに販売店が引き取りに来てくれないといったトラブル事例が見受けられますので、遠方の販売店から購入するユーザーは、契約不適合による不具合であった場合は、持込(引取)費用の負担は販売店側の責任で行う等、特別な約束をしておかないと自費で持込(引取)費用を負担することになる場合があります。
保証書等の交付の必要
自動車公正競争規約は、保証付き販売を行った販売店に、保証書を購入者へ交付することを義務づけています。これらによれば、保証付き販売の場合における販売店の責任の範囲はかなり明確です。
そこで、保証付き販売によって自動車を購入しようとする消費者は、保証書の交付を是非販売店に要求すべきです。
保証と自然損耗
販売店は自動車の品質、性能を保証するといっても、販売後の使用によって自然に生じる損耗ないし性能の低下まで責任を持つというのではないことは当然です。一般に使用されている保証書にもそのことは明記されていますが、仮に保証書の交付がなかったり、そのことが明記されていない保証書が使用された場合でも、この点に変わりはないと思います。