中古車トラブル事例
【相談内容】納車後トラブル(契約内容に適合しない不具合があった場合)
販売店から買った自動車に、引渡しを受けたあと次のような問題点が発見された場合、ユーザーはその自動車を販売店に引取ってもらい、代金の返還を求めることができるのでしょうか。
- 相談① 4WDということで購入したのに、実際は2WDだった
- 相談② 塗装が再塗装だった
- 相談③ エンジンの調子が悪く、何度修理しても良くならない
- 相談④ フロントガラスに傷がついていた
- 相談⑤ 「運転支援機能〇〇付き」で購入したが、その機能が非搭載だった
- 相談⑥ 「運転支援機能〇〇付き」で購入したが、その機能が故障していた
【回答】
相談①:4WDということで購入したのに、実際は2WDだった
自動車の駆動輪が4WDなのか2WDなのか、一般人は容易に確認することはできないでしょう。したがって4WDだと思った購入車が2WDだったということは契約内容の不適合にあたります。そして2WDの自動車はどのようにしても4WDの自動車にはなりませんから、ユーザーは4WDの性能を持つその自動車を手に入れるという契約の目的を達成できないことになります。
以上のことから、ユーザーは売買契約を解除して自動車の引取りと代金の返還を販売店に請求できることができます。
相談②:塗装が再塗装だった
ユーザーが新車の時のままのものであると思った塗装が、その自動車の将来的な経済価値の大幅な下落が見込まれるような色替え等の再塗装であった場合には、契約内容の不適合にあたる可能性があるでしょう。
しかし、再塗装されたものであったことによって、ユーザーが「その自動車を購入した目的を達成することができなくなった」とするには疑問が残ります。再塗装を必要とした原因が何かにもよりますが、一般的にはプライスボード、コンディションノート等によって説明された品質、性能をその自動車が備えていれば、たとえ再塗装された自動車であってもユーザーがその自動車を購入した目的は達せられたと見るのが相当だからです。
そうだとすれば、ユーザーは契約を解除することまではできず、代金減額請求や損害賠償のみができることになります(損害賠償請求には売り主の帰責事由が必要とされているので、代金減額請求を行うことが相当でしょう。なお、代金減額請求を行うには事前に履行の追完請求(契約不適合部分の修補請求)をする必要があるのが原則ですが、車両の経済的価値を毀損する再塗装といった本事例のようなケースでは修補することが不可能と思われますので、履行の追完を請求することなく代金の減額請求が可能です。)。その場合の減額の範囲が争点となりえますが、再塗装車であることによってその自動車の通常の取引価格がユーザーの実際の購入価格より安くなる場合には、その差額をユーザーの損害とすることができるでしょう。
相談③:エンジンの調子が悪く、何度修理しても良くならない
何度修理してもエンジンの調子が良くならない自動車は、もともと通常の運行に供することが不適当な自動車というべきですから、その自動車には本来有すべき品質、性能を欠いたものとして、契約内容に適合しないとみるべきです。したがってユーザーは、請求した履行の追完(修補請求)が実現しないものとして、契約を解除して、支払った代金の返還を請求することができます。
相談④:フロントガラスに傷がついていた
フロントガラスの傷は、特に専門知識がなくてもちょっと注意を払えば一般人でも発見が可能です。したがって、フロントガラスにそのような傷があることを前提に売買契約が成立したといえ、契約内容に適合していないといえません。ですからユーザーはそのことを理由に契約解除や損害賠償請求をすることはできません。
相談⑤:「運転支援機能〇〇付き」で購入したが、その機能が非搭載だった
相談①と同様になります。
相談⑥:「運転支援機能〇〇付き」で購入したが、その機能が故障していた
販売店が「運転支援機能〇〇付き」と表示して販売した場合は、その機能は作動することが前提となります。よって、その機能が故障していたのであれば販売店の責任で修理をしてユーザーに引渡すことが必要です。したがって、ユーザーは販売店に対して追完請求(無償修理の請求)が可能であり、販売店がユーザーの修理の請求に対応しない場合は、契約を解除できる可能性があります。
【解説】
特定物の売買と契約内容に適合しないもの(旧法:隠れた瑕疵)
2020(令和2)年4月に施行された改正民法の前までは、売買の対象とされた特定の物に発見された引渡しの時には分からなかった傷や欠陥のことを「隠れた瑕疵」といっていましたが、現在は契約内容に適合しないものとして「契約不適合」といいます。
ところで取引きの対象物に代替性のある場合なら、引渡されたものに契約不適合(隠れた瑕疵)が発見されたときには、買主は代わりの別の物の引渡しを売主に要求すれば良いのですが、対象物がはじめから特定の物である場合には、買主は売主に交換の要求をして最初の注文どおりの物を手に入れることができませんので、結局、追完請求(修補)、代金減額請求か損害賠償請求か契約の解除によって事態を解決するしか方法はありません。そして、中古自動車は新車とは異なり一物一価であることから、その取引きにおいては原則として代替性はありませんので、売買された中古自動車に契約不適合(隠れた瑕疵)が発見された場合には、この方法によって問題を処理することになります。
契約解除が認められる場合
売買の対象となった中古自動車が契約内容に適合しないものであり、買主となったユーザーが売主である販売店に対して相当期間を定めて追完請求(修補請求)を(催告)したのに、販売店が相当期間内に追完(修補)を行わない場合、これが債務不履行となりますので、買主は売買契約を解除できるのが原則です。これを「催告による解除」(催告解除)といいますが、このような解除がなされた場合、売り主である販売店において契約不適合が軽微であることを立証しない限り解除は有効なものとされます。
また、売買の対象となった中古自動車が契約に適合しないものであり、その契約不適合部分の追完(修補)が不可能である場合など、そのままでは契約をした目的を達成できないと認められるときは、買主であるユーザーは追完(修補)の請求(催告)をすることなく売買契約を解除することができます。これを「催告によらない解除」(無催告解除)といいます。
契約内容と大きく異なること等
車両状態が契約内容に適合しない場合であっても、それが軽微である場合には契約の解除はできません。場合によっては損害賠償請求も制限される可能性があります。
また、買主は自分の不注意で見逃した欠陥については、追完請求(修補)、代金減額請求、損害賠償請求や契約解除を請求することは可能ですが、過失相殺により請求額が減額される可能性があります。
運転支援機能を搭載している車両の表示
運転支援機能搭載車は、各メーカーから発売されており、技術開発の著しい発展に伴い同車種であっても製造年月によっては同機能でも性能に差があったり、作動状況等が異なっているものがあります。そして販売店が当該機能の装着の有無を容易に確認できないものや作動環境を把握しきれていないことがあり、また実際に正常作動するか確認することは非常に困難です。
しかし、販売店が「運転支援機能〇〇付き」と表示して販売した場合は、当該機能は作動することが前提となります。
また、販売店は、取扱説明書等を利用して装着されている当該運転支援機能の作動環境等を説明するとともに、自動で危険を回避してくれる装置ではなく補助機能であること、ユーザーの誤認(過信)を招くことのないよう適正な表示や説明を行い、さらにはユーザーにこれらの説明を受けたことについて「運転支援システム(衝突被害軽減ブレーキ等)の留意事項説明書」等に署名をもらうなどして販売者として説明責任を果たすことが求められます。
なお、運転支援機能が搭載されている旨を表示していない場合であっても、ユーザーから搭載の有無について聞かれた場合は、可能な限り確認し適切に回答する必要があります。