中古車トラブル事例
【相談内容】契約後キャンセル(支払い済の手付金の扱いについて)
50万円で中古車を購入することにして5万円を支払い、残金は1週間後に現金で支払うことにしました。ただし、その際、注文書または契約書などの書類に署名・捺印はしませんでした。
しかし、帰宅後に家族から反対されて、翌日契約は取りやめにしたいと販売店に申し出ました。
- 相談①:この場合、販売店には申し出に応じてもらえるのでしょうか。
- 相談②:支払った5万円はどうなるのでしょうか。
- 相談③:5万円を支払っていなかった場合はどうなるのでしょうか。
【回答】
相談①:販売店に応じてもらえるのか?について
売買契約の要素である目的物、代金額及びその支払時期について、双方の意思が合致した上で金銭の授受があったのですから、契約成立の一般原則からするとユーザーと販売店との間の契約は成立していることになるでしょう。契約は成立していると見られますので、ユーザーは販売店の合意なく契約の取り止め(申込みの撤回)をすることはできません。
相談②:支払った5万円はどうなるのか?について
契約が成立している以上、販売店は無条件でユーザーに5万円を返さなくてはならない理由はありません。
相談③:5万円を支払っていなかった場合どうなるか?について
契約書面の交換がなく、金銭も支払われていない場合には、たとえ目的物と代金額について双方に意見の食い違いがなかったからといっても、まだそれは交渉段階に留まっていて契約は成立していないとみることができます。
したがって、ユーザーが契約を取り止めにすることは自由にできます。もっとも中販連が監修している自動車注文書には「購入者は申込みを撤回した場合には、通常生じる範囲の損害を賠償する」と記載されています。ここでいう「通常の範囲の損害」とは、たとえばキャンセルの場合は陸送費用が損害となる旨を事前に説明の上、ユーザーの要望で他所(同一法人やグループ会社等ではない会社等)から自動車を取り寄せてユーザーに見せた場合の運送費用などがこれに当たるでしょう。そして、この自動車注文書を作らなかった場合でも、販売店はこの限度でユーザーに損害賠償を求めることは認められるでしょう。
【解説】
契約の成立と申込みの撤回
売買契約を申し込んだ人が後にこれを取りやめたいと申し出ることを「申込みの撤回」といいます。この申込みの撤回はいつでも自由にできるわけではなく、契約が成立してしまえばもはや撤回はできません。そこでいつ契約が成立するかですが、契約は「申込み」と「承諾」が合致したときに成立します。その際、双方の意思の表明だけでなく、さらに一定の形式を備えることが法律によって契約の成立要件とされる場合がありますが、売買契約ではそのような形式は要求されていませんので、口頭でも契約は成立します。
なお、割賦販売法では、割賦販売契約をした業者は購入者に購入条件などを明示した書面を交付しなければならないとされていますが、この書面の交付と契約成立の有無とは直接関係ありません。
しかし、売買契約が口頭でも成立するといっても、実際に成立したかどうかをどこで見極めるかは難しい問題で、金銭の授受があったかどうかも結論を決める一つのポイントになります(ただし、金銭の授受があったこと自体から契約の成立を認めることは慎重であるべきです。どのような趣旨で金銭の授受があったのかを確認する必要があります。)。
自動車売買の契約成立時期
自動車の販売は、現金販売、クレジット販売などの販売形態があり、販売形態ごとに何らかの書類が契約当事者によって作られるのが通常ですが、それらの契約の成立の時期は各契約書に明示されていることが通常です。
たとえば、現金販売の形態をとる場合で、一般の(自販連、中販連の監修及び準拠以外の)自動車注文書によって買主が自動車を買おうとするときは、自動車注文書に定められている事由があった時点で契約が成立することになります。
そこで、買主はこの自動車注文書によって注文した場合には、いま説明したような契約成立の時点までの間は、契約を取り止めにしたいと販売店に申し出る(契約申込みの撤回)ことができます。
自動車業界における契約の成立
売買契約の成立はいつになるのでしょうか。先に述べたとおり口頭でも売買契約は成立しますが、現代の自動車売買においては書面を作成して適切な内容で注文書を作成することが一般的となっています。口頭での契約の場合は時間の経過によって記憶違いや詳細を失念する可能性がありますが、書面にすることでそのようなトラブルを未然に防ぐことができますし、トラブルから裁判になった際、契約内容の証拠書類として活用することもできます。
なお、注文書の記載項目や金額が印刷であろうと手書きであろうと問題ではありません。契約の成立については、その書面から契約の成立時期が読み取れる内容が記載されているかどうかが重要なポイントとなります。ほとんどの注文書には契約の成立時期について条文があり、その条文の記載のとおり契約は成立します。自動車業界における標準的な契約の成立時期は以下のとおりです。
以下のいずれか早い日に契約が成立します。
- ① 購入者の名義に変更登録がなされたとき
- ② 販売者が購入者の依頼に基づく修理改造架装※に着手したとき
- ③ 車両が購入者に引き渡されたとき
なお、割賦販売、立替払付販売等のクレジット契約の場合は、これらの書面に定められている日に契約が成立します。
※修理改造架装に一般的な整備(定期点検を含む)は含みません。
したがって、標準約款ではクレジット契約が成立しなければ、売買契約も未成立となります。
一方で、仮に契約の成立についての条文が無かった場合はどのように判断するのかは、当事者の合意があったといえるのかが判断基準となります。一般的な売買は諾成契約であることは説明しましたが、「購入の申込み」と「販売の承諾」が一致し合意がなされて契約成立となります。
よって、販売店が作成した注文書に署名捺印した場合には契約成立とみなされることもあります。注文書を作成しなかった場合や見積もりのみの作成で書面への署名はないものの頭金や申込金の支払いがあることで購入の申込の意思表示があり契約が成立することを双方が合意したと判断されることもあるでしょう。条文に契約の成立時期についての記載がない場合は、あらゆる状況を総合して判断することになります。