中古車トラブル事例
【相談内容】注文後キャンセル(支払い済の手付金、および販売店が実施済の整備作業費の扱いについて)
ユーザーは、販売店の店頭で気に入った中古車を見つけ、代金100万円でこれを買うことにし、注文書に署名、捺印したうえ、エアロパーツ取付や整備を依頼し、手付金として10万円を支払い、残金は5日後に自動車の引渡しを受ける際に支払うということで帰宅しました。
しかし、帰宅後家族に反対され、2日後に契約をキャンセルしたいと販売店に申し出ました。一方、販売店はユーザーからの注文を受けた日のうちにエアロパーツ取付や整備の作業を開始していました。
- 相談① この場合、キャンセルの申し出に応じてもらえるのでしょうか。
- 相談② 解約に応じてくれることになった場合、支払済みの手付金はどうなるでしょうか。
- 相談③ エアロパーツの取付けや整備の作業のために販売店は10万円以上の費用をかけました。手付金以外にその分の損害をユーザーに請求できるでしょうか。
【回答】
相談①:キャンセルの申し出に応じてもらえるのか?について
手付金が授受されている場合、契約当事者は手付放棄または手付倍返しをして契約を解約できますが、それは相手方が契約の履行に着手する前に解約を申し出た場合に限られます。
販売店はユーザーの注文(依頼)に基づいて架装作業を開始していますから、すでに契約の履行に着手していることになり、したがって契約の解除はできません(手付解除を申し出ても無効です)。
相談②:支払済みの手付金はどうなるのか?
解約申出は無効ですから、あくまでも解約を主張して決められた期日に残代金を支払うのを拒否することは債務不履行になり、販売店がそれを理由に売買契約を解約することができ、同時に販売店から損害賠償の請求がされる場合があります。
そして本設例の場合、10万円の手付金を支払っていますが、違約の場合にはこれを没収されるという約束は特になされていなかったようですから、販売店は当然に(損害があってもなくても)10万円を没収できるのではなく、実際の損害額に基づいて請求されることになります。
相談③:販売店は整備作業済の費用をユーザーに請求できるのか?について
販売店は10万円以上の損害があったというのですから、手付金を没収(相殺)した上に、それを超える分の損害をもユーザーに請求できます。ただし、どのような損害がいくら発生したといえるかについて、資料及び明細を求めるなどして説明を受けることが重要です。
【解説】
契約成立後の解約
売買契約がまだ成立していない場合は、申込者(ユーザー)は自由にその申込みを撤回し、契約をしないで済ませることができますが、一旦契約が成立してしまうと、契約当事者は一方的に契約をキャンセル(解除・解約)することは原則としてできません。契約を解除・解約するには、相手方に契約違反があってそれが是正されない場合か、途中で契約を取り止めにすることを双方があらかじめ合意している場合に限られるのです。
手付金・頭金・内金・申込金・申込証拠金
売買契約に関して買主から売主に少額の金銭が支払われることがしばしばあります。それらを大別すると、契約締結に際して支払われるもの(手付金、頭金、内金)と契約締結行為に先立って将来の契約締結の順番を確保するために授受されるもの(申込証拠金)があります。申込証拠金というのは不動産の現地販売でよくやり取りされるものですが、その授受があっても購入希望者はまだ正式に契約の申込みをしたのではありませんから、その後でも契約をするかどうかを自由に決められます。
これに対して、手付金、頭金、内金という趣旨で金銭が授受された場合には、その支払者は契約締結行為(申込みまたは承諾)をしたとみられるのが通常です。その場合には、手付金などの金銭授受の時点で契約が成立し、したがって契約当事者は以後これに拘束されることになります(中販連監修、準拠確認済みの自動車注文書を用いてする自動車売買にあっては、いかなる名目の金銭の授受があっても直ちに契約は成立せず、前述の条件が整って、始めて契約が成立するとされています)。
しかし、手付金が解約手付として授受された場合には、契約成立後であっても当事者の一方は、相手方が契約の履行に着手するまでは、手付金を放棄するか、これを倍返しして契約を解除することができます。契約に際して授受された金銭が解約手付かそうでないかは各契約で個別に判断するしかありませんが、解約手付は上に述べたように契約の解除権を留保するという特別の効果を伴うものですから、解約手付であることが明確である場合にのみ解約手付として扱われることになります。
違約金
売買契約などで契約に違反した者は一定額を違約金として相手方に支払うと定めている例があります。また、違反した場合には手付金を没収する、手付金を倍返ししなければならないと定めている場合(違約手付)も少なくありません。これらは「違約の定め」といって、契約の中で双方が特にそのことを合意して設けられるものです。この違約の定めをすると、違反した者は相手方に対して相手方の実際の損害額がいくらかにかかわりなくその違反金を支払わなくてはいけないのが原則です。
しかし、違約の定めはそのことを双方が特に合意する必要があることは上に述べた通りですから、単に手付金としての金銭の授受があっただけでは、違約の定めをしたことになりません。
なお、2001(平成13)年に消費者契約法が施行されてから、事業者と消費者が行う契約については、違約の定めを注文書特約事項で記載していても「平均的な損害を超える部分」については無効とされました。「平均的な損害」の範囲内として、事業者がユーザーに損害賠償請求できる費用は、一般的な営業行為を除いた、車庫証明費用や消費者から注文されたワンオフものの特別なオプションや特殊整備等、いわゆる実費(次の購入者に転嫁できない性質のもの)とされるのが通常です(中販連監修の自動車注文書では、このことを「注文者は、都合で申込みを撤回し、販売者に損害を与えた場合には、通常生じる範囲のものに限り、販売者に損害を賠償するものとします(注文者の故意・過失に基づかない場合を除く)。」と定めています。)。